
2026年下水道法改正が生まれた背景
2025年1月、埼玉県八潮市の市道で突然の道路陥没が発生しました。陥没箇所の地下には老朽化した下水道管があり、長年の腐食・破損によって周辺土壌が流失したことが直接の原因でした。この事故は全国に衝撃を与え、下水道インフラの老朽化問題が一気に社会的な注目を集めることになります。
国土交通省によると、全国の下水道管路の総延長は約50万km(令和6年度末)で、標準耐用年数50年を経過した管路は約4万km(約7%)ですが、10年後(令和16年度末)には約11万km(約22%)、20年後(令和26年度末)には約23万km(約45%)へ急増する見通しです。こうした状況を受け、政府は2026年3月27日に「下水道法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、法律は2026年7月15日に国会で成立、7月23日に公布されました(令和8年法律第65号)。施行は、災害時に都道府県が公共下水道の復旧工事を代行できる規定が2026年8月17日で、それ以外の改正事項は公布の日から6か月を超えない範囲で政令で定める日とされ、国土交通省は2027年1月頃の施行を予定しているとしています。
改正の柱は大きく三つです。
- 安全性確保を最優先する下水道マネジメントの確立(老朽化した管路の診断基準の法制化、計画的な改築の実施、維持管理状況や収支見通しの公表など)
- 道路管理者と下水道管理者などの連携による道路地下空間の安全性確保
- 広域連携の推進や他の自治体による管理の代行など、下水道マネジメントを支える基盤の強化
これらは配管工事業者の実務に直結する変化であり、早期の対応準備が欠かせません。
出典: 国土交通省「下水道の維持管理」(施設の現状)/首相官邸「令和8年3月27日(金)定例閣議案件」/国土交通省「下水道法等の一部を改正する法律案」概要/国土交通省「下水道法等の一部を改正する法律の公布について」(事務連絡)/国土交通省「下水道法等の一部を改正する法律の一部の施行について」(通知)
工事需要の変化と求められる技術

改正法では、老朽化に伴う管路の安全性を評価する診断の基準が法制化され、下水道管理者は診断結果などの維持管理の状況や収支の見通しを公表し、施設の計画的な改築を行うこととされました(法律案の概要)。主な改正事項の施行はこれからで、仙台市を含む宮城県内の下水道管理者がどの管路から更新するかは、各管理者が公表する計画や発注の情報で確かめる必要があります。配管工事業者にとっては、事故の後の修繕だけでなく、診断と計画にもとづく改築の工事に備えることが大切になります。
特に需要が増加するのは非開削工法(トレンチレス工法)を用いた更新工事です。既存の管を地表から掘り起こさずに、管内から新しい管路を構築するこの工法は、道路の掘削面積を最小限に抑えられるため、交通量の多い市街地や商業地での施工に適しています。
具体的な工法としては、次のものなどがあります。
- 既存管内に樹脂ライニングを施す管更生工法(パイプライニング)
- 新管を引き込むパイプインパイプ工法
- 管を破砕しながら新管を押し込むバースト工法
これらの工法に対応できる技術者を社内に育成・確保することが、今後の受注競争力を左右します。
加えて、施工前の管内調査技術も重要性を増しています。内視鏡カメラ(管内カメラ)による詳細調査や、音波・電磁波を用いた非破壊検査は、更新優先度の評価と施工計画の立案に不可欠であり、これらを自社で提供できると提案力が大きく向上します。
補助金・助成制度の全体像と活用方法
老朽管の更新を後押しする国の財政支援の仕組みもあります。配管工事業者として顧客に正確な情報を提供できるかどうかは、受注率に直結します。
国土交通省は下水道のストックマネジメント(計画的な点検・調査と改築)を推進しており、自治体が策定した長寿命化・更新計画に基づく工事に対して、国が費用の50〜55%(主要な管渠等は2分の1、終末処理場の一部は10分の5.5)を補助します。令和8年度予算では、大口径の管路や緊急輸送道路に埋設された管路など事故の時の影響が大きい重要管路の更新や複線化を支援する個別補助事業(重要下水道管路更新事業など)も創設されました(国土交通省「令和8年度 上下水道関係予算の概要」・国土交通省「令和8年度予算大臣折衝について」)。これらの補助を受けるのは下水道管理者である地方公共団体なので、工事の機会は自治体の発注として現れます。自治体の入札情報を定期的に確かめる体制が必要です(水道の側の同じ仕組みは重要水道管路更新事業とはで解説しています)。
出典: 下水道法施行令 第24条の2(e-Gov 法令検索)/国土交通省「下水道の維持管理(ストックマネジメントの推進)」
民間住宅の排水設備工事については、自治体によって助成や融資の制度があります。たとえば仙台市は、くみ取り便所の水洗化や浄化槽から下水道への切替工事に無利子の融資あっせん制度を設けています。対象や条件はお住まいの自治体で確認してください。工事の問い合わせ段階で顧客に補助金の存在を案内し、申請手続きをサポートする姿勢が顧客満足と信頼につながります。
配管工事業者が今から取り組むべき準備
法改正の施行に向けて、今から着手すべき準備事項を整理します。
まず技術資格と研修への投資です。非開削工法には専門的な施工資格が必要なケースがあります。日本下水道協会や各工法の技術保有企業が提供する研修・認定プログラムへの参加を計画してください。社内に有資格者がいることは、自治体の入札参加条件を満たすうえでも重要です。
次に定期診断サービスの立ち上げです。建物の所有者や管理者が、排水管の劣化の状況を把握していないこともあります。管内カメラによる排水管の調査を入口として提供すると、更新工事の提案につながります。
さらに補助金情報の体系的な収集を行います。担当エリアの市区町村ごとに、排水・下水設備に関連する補助金・助成金の一覧を作成し、定期的に更新してください。顧客への提案時に「この工事は〇〇市の補助金が使えます」と具体的に示せると、工事の決断を後押しできます。
最後に安全管理体制の整備です。老朽管の更新工事は地盤が不安定な箇所での作業を伴うことが多く、土砂崩れや有毒ガス(硫化水素など)の危険があります。リスクアセスメントの実施と作業手順書の整備、定期的な安全教育の徹底が求められます。
地域社会への貢献という視点
老朽下水道管の破損は、道路陥没だけでなく、河川・海への未処理下水の流出による水質汚染、建物基礎への浸食など、広範な被害をもたらします。配管工事業者が担うのは単なる「工事の施工」ではなく、地域の生活基盤と環境を守るインフラ整備の最前線です。
宮城県は東日本大震災の経験から、インフラの耐久性・冗長性に対する意識が特に高い地域です。技術力と信頼性を持つ地元業者への期待は大きいといえます。
2026年の法改正を、単なる規制強化としてではなく、技術と体制を磨き、地域から選ばれる業者へと成長する好機として捉えてください。標準耐用年数50年を経過する管路は今後増えていく見通しで、早期に準備を整えた事業者ほど、更新の需要に応えやすくなります。
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