
ポンプアップとは?仕組みを30秒で理解
ポンプアップとは、重力(自然勾配)では流せない低い場所の排水を、ポンプの力で高い位置の排水管まで汲み上げて送る方法のことです。配管業界では「排水圧送」「強制排水」とも呼ばれます。
仕組みはシンプルで、次の3ステップで排水を処理します。
- 地下・半地下フロアの排水をいったん集水ピット(汚水槽)に貯める
- ピット内の水位が一定まで上がると水中ポンプが自動で起動する
- 汲み上げた排水を圧送配管で上方の排水管・公共下水道へ送り、逆流は逆止弁で防ぐ
ポンプアップが必要になる典型例は以下のとおりです。
- 地下室・半地下フロアのトイレ・洗面・キッチン
- 道路(下水道本管)より低い土地に建つ建物
- 地下駐車場の湧水・雨水ピット
- ビル地下テナント(飲食店の厨房排水など)
- 浄化槽の流入口や放流先と、排水の高さが合わない敷地(原水ポンプ槽・放流ポンプ槽)
要するに「排水の出口より低い場所で水を使う」ならポンプアップ設備が必要、と考えてください。以下で設備の構成・設計・費用・メンテナンスを詳しく解説します。
排水ポンプアップ設備が必要になる理由

一般的な排水設備は、自然の重力(勾配)を利用して汚水・雑排水を公共下水道へ流します。しかし地下室・半地下フロア・低地の建物では、排水管の出口(接続先の公共下水道管や浄化槽)よりも排水発生場所の床面が低くなるため、重力だけでは排水できません。
このような場合に設置するのが排水ポンプアップ設備(排水圧送設備)です。集水ピット(汚水槽)に排水を一時貯留し、ポンプで圧送して上方の排水系統に送り込む仕組みです。地下駐車場・地下居室・半地下のキッチンや洗面台など、さまざまな場所で使われています。
既存の建物で地下の用途を変える場合や、地下の排水設備が古くなった場合には、ポンプアップ設備を後から設けたり更新したりする工事が必要になることがあります。
浄化槽のポンプアップ(原水ポンプ槽・放流ポンプ槽)
下水道が整備されていない地域では、建物の排水を浄化槽で処理してから、側溝や水路などへ放流します。浄化槽のまわりでポンプアップが必要になるのは、建物から浄化槽へ流し込む側と、浄化槽から放流先へ出す側の 2 か所で、それぞれ専用のポンプ槽を設けます。
- 原水ポンプ槽(流入ポンプ槽):建物から来る排水管が浄化槽の流入口より低くなる場合に、汚水をいったん貯めて浄化槽へ汲み上げる槽
- 放流ポンプ槽:浄化槽で処理した水の放流先(側溝・水路など)が浄化槽の放流口より高い場合に、処理水を汲み上げて放流する槽
原水ポンプ槽が必要になる場合
浄化槽までの距離が長いと、流入管の勾配を取るために浄化槽を深く埋めることになります。大阪府は府の基準として、マンホールのかさ上げを30cm以内とし、やむを得ずそれを超える場合はピットか原水ポンプ槽の設置が必要とし、流入管が浄化槽の流入口より深くなる場合は原水ポンプ槽を設けるよう案内しています。深く埋めすぎると、点検で内部の機器に手が届かないなど、維持管理に支障が出るためです(大阪府「浄化槽の適正な設置について」)。これは大阪府内の基準なので、ほかの地域では、その地域の基準と浄化槽メーカーの施工要領書で条件を確かめます。
放流ポンプ槽の構成
浄化槽メーカーの施工要領書の一例(大栄産業 ダイエー浄化槽 FCI型)は、放流先の排水溝が高い場合はポンプアップが必要とし、排水溝の水位の高さと揚程を確かめて能力の合うポンプを選ぶこと、放流ポンプは必ず 2 台設けて自動交互運転とし、満水時は同時運転となるようにすることを求めています。この型式の放流ポンプ槽には、交互運転の起動・停止用、2 台同時運転用、警報用の 3 つのフロートスイッチがあり、試運転の点検表では、ポンプ配管に逆止弁が付いているか、ポンプを容易に交換できるかを確かめるとしています(大栄産業 ダイエー浄化槽 FCI型 施工要領書)。
浄化槽のポンプは保守点検の対象
浄化槽法施行規則は、保守点検の技術上の基準として、駆動装置とポンプ設備を常時または一定の時間ごとに作動するようにすることを定め(第2条)、ポンプ設備の作動状況の点検は、決められた保守点検の回数とは別に、必要に応じて行うものとしています(第6条)。浄化槽を使う側の決まり(使用に関する準則)にも、電気設備のある浄化槽の電源を切らないこと、故障や異常に気づいたら直ちに浄化槽管理者に知らせることが挙げられています(第1条。浄化槽法施行規則)。ポンプが止まると槽の水位が上がり続けるため、警報が出た時に誰が対応するかを、保守点検を頼んでいる業者とあわせて決めておきます。
なお、浄化槽のブロワー(エアポンプ)は槽の中に空気を送る機器で、排水を汲み上げるポンプとは別のものです。浄化槽そのものについては、次の記事で取り上げています。
- 浄化槽の仕組みと日常の維持管理:浄化槽の仕組みと維持管理
- 保守点検・清掃・法定検査の義務:合併浄化槽の法定検査・定期清掃の義務と流れ
- ブロワーの保守と交換:浄化槽ブロワー(エアポンプ)の保守と交換ガイド
- 放流ポンプ槽を設けた時の臭気の抜き方:浄化槽の臭突管(臭気抜き管)とは
- 新設工事の流れ:浄化槽の設置工事費用と施工の流れ
- 単独処理浄化槽からの切り替え:合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の違い
設備の構成と仕組み
排水ポンプアップ設備は大きく以下のコンポーネントで構成されます。
集水ピット(汚水槽・雑排水槽)
地下フロアからの排水を受ける密閉型のタンクです。材質はFRP(繊維強化プラスチック)・コンクリート・ポリエチレン製が一般的です。容量は排水量のピーク流量を吸収できるよう設計します。密閉型にすることで臭気の漏れを防ぎ、専用の通気管(排気ダクト)を設けます。
水中ポンプ(排水ポンプ)
ピット内の水位に応じてフロートスイッチや電極棒で自動起動・停止する水中ポンプを設置します。ポンプは通常2台(主ポンプ・補助ポンプ)を交互運転させ、一方が故障しても運転継続できる冗長構成にします。揚程(水を汲み上げる高さ)と吐出量は建物の排水量・配管長・管径をもとに計算します。
圧送配管・逆止弁
ポンプ吐出口から上方の公共排水管まで圧送配管を設けます。ポンプ停止時に圧送配管内の汚水がピットへ逆流しないよう、逆止弁(チェックバルブ)を必ず設置します。圧送配管はポンプ吐出圧に耐える管種・肉厚のものを選定し、長距離になる場合は管路抵抗を計算して適切なポンプを選定します。
制御盤・警報設備
水位が異常上昇した場合(高水位警報)やポンプ故障時に警報を発する制御盤を設置します。音声警報・パトランプ・管理室への遠隔警報で異常を即座に知らせる設計にしておくと、溢水(オーバーフロー)被害を防げます。
設計のポイントと選定基準
排水量の算定
地下フロアの用途・利用人数・水回り設備の数から最大排水量を算定します。飲食店・レストランのキッチンが地下にある場合は、グリーストラップも設けて油脂による配管詰まりを防ぐ設計にします。
揚程計算
ポンプ選定で重要なのが全揚程(Total Head)の計算です。実揚程(ピット底面〜排水放流点の高度差)に加え、配管の摩擦損失・継手損失・逆止弁損失などの損失水頭を合算します。この計算を誤るとポンプが規定流量を吐出できず、ピットが満水になるリスクがあります。
ポンプ型式と材質
汚水用途ではフリーパスポンプ(固形物を詰まらせずに通過させる設計)を採用します。雑排水専用(固形物なし)の場合はより選択肢が広がります。宮城・東北地方の冬季に設備室が低温になる場合、ポンプや制御盤の防寒対策も必要です。
排水ポンプ選定の目安早見表
住宅〜小規模施設で使われる水中ポンプの一般的な目安を早見表にまとめました。実際の選定は排水量・揚程計算に基づいて行います。
| 用途 | 推奨口径 | ポンプ形式 | 揚程の目安 |
|---|---|---|---|
| 洗面・洗濯などの雑排水(固形物なし) | 32〜40mm | 汎用水中ポンプ | 3〜8m |
| トイレを含む汚水(固形物あり) | 50mm以上 | フリーパス型・カッター付き | 5〜10m |
| 地下駐車場の湧水・雨水ピット | 40〜50mm | 汎用水中ポンプ(自動運転型) | 3〜8m |
| 飲食店厨房の排水(油脂あり) | 50mm以上 | フリーパス型+グリーストラップ併用 | 5〜10m |
いずれの用途でも、故障時に排水を止めないため主ポンプ+補助ポンプの2台交互運転とするのが原則です。
施工手順と工期
- 既存排水系統の調査:現況の排水経路・床下空間・ピット設置可能スペースを確認
- 設計・機器選定:揚程計算・ピット容量計算・機器仕様の確定
- ピット設置工事:床面のはつり(コンクリート掘削)→ピット埋設→防水処理→埋め戻し
- ポンプ・制御盤設置:ポンプ吊り込み・配管接続・電気工事(制御盤・フロートスイッチ配線)
- 圧送配管工事:上方排水管までの圧送配管敷設・逆止弁設置
- 試運転・調整:各水位での動作確認・警報動作確認・試水運転
- 排水経路切り替え:既存排水管から新設ポンプアップ系統へ切り替え
工期は、集水ピットを新設するか既存のピットを使うか、ポンプの台数、配管の距離、電気工事の範囲、営業中の施設で作業できる時間帯などで大きく変わるため、現場調査のうえで工程を組みます。
維持管理と定期点検
排水ポンプアップ設備は電動機械設備のため、定期的なメンテナンスが不可欠です。
- 月次点検:ポンプの動作確認・水位計・フロートスイッチの動作チェック・ピット内の清掃
- 年次点検:ポンプ分解整備・オイルシール交換・制御盤内部点検・絶縁抵抗測定
- ポンプ本体の交換:時期は使用頻度・水質で変わるため、点検の結果とメーカーの推奨をもとに判断
ポンプが停止すると地下フロアに排水が溢れ、床面・什器・電気設備に甚大な被害をもたらします。特に飲食店・店舗の地下フロアでは営業停止にもつながるため、予防保全の観点から定期メンテナンス契約を結ぶことをすすめます。
設置・交換費用を左右する条件
ポンプアップ設備の費用は、現場の条件で大きく変わります。見積りの前に、次の点を整理しておくと話が早く進みます。
- 既存の集水ピットをそのまま使えるか、新しく設けるか(新設なら床のはつり・ピットの埋設・防水の工事が加わる)
- ポンプの台数と型式(汚水用のフリーパス型・カッター付きか、雑排水用か)、制御盤・警報設備も新しくするか
- 必要な揚程と、圧送配管の長さ・管径・逆止弁などの弁類
- 電気工事の範囲(電源の引込み、制御盤やフロートスイッチまでの配線)
- 機器の搬入経路と、営業中の施設で作業できる時間帯
正確な金額は、現場調査のうえでお見積りします。
自然勾配(重力排水)との違い
通常の排水は、排水管の勾配設計によって重力だけで下水道へ流す「自然勾配(重力排水)」方式です。ポンプアップとの違いを整理すると次のようになります。
| 比較項目 | 自然勾配(重力排水) | ポンプアップ(排水圧送) |
|---|---|---|
| 動力 | 不要(重力のみ) | 電気(水中ポンプ) |
| 適用条件 | 排水先より高い位置からの排水 | 排水先より低い位置からの排水 |
| ランニングコスト | ほぼゼロ | 電気代+定期点検・ポンプ交換費 |
| 停電時 | 影響なし | 排水不可(ピット満水に注意) |
| 主なリスク | 勾配不良・異物詰まり | ポンプ故障・フロート不良・逆止弁劣化 |
計画段階で床の高さや配管ルートを工夫して自然勾配で流せるなら、それが第一選択です。ポンプアップはあくまで「重力では物理的に流せない場合」の手段であり、導入後は機械設備としての維持管理が必ず発生する、という違いを押さえておいてください。
よくあるトラブルと故障の前兆
排水ポンプアップ設備のトラブルには、多くの場合前兆があります。次のような症状が出たら点検のタイミングです。
- ポンプが頻繁に起動・停止を繰り返す:逆止弁の劣化で圧送管内の汚水がピットへ逆流している疑い。放置するとポンプの寿命を縮めます。
- 稼働音がいつもと違う(うなり音・異音):羽根車への異物絡みや軸受けの摩耗の疑い。
- ピットからの臭気が強くなった:通気不良・汚泥の堆積・ふた部パッキンの劣化などが原因。
- 高水位警報が出た:ポンプの能力不足・故障・フロートスイッチ不良。溢水事故の一歩手前のため至急点検が必要です。
- ポンプが動いているのに水位が下がらない:吐出配管の詰まり・逆止弁の固着・ポンプの空転(エア噛み)の疑い。空転対策はポンプの空運転(ドライラン)防止ガイドで詳しく解説しています。
フロートスイッチと逆止弁は消耗品で、ポンプ本体より先に寿命を迎えるのが一般的です。点検項目・頻度の詳細は排水ポンプのメンテナンスも参考にしてください。
森工業へのご相談
森工業は法人・事業者様専門で、工場・店舗・賃貸物件の共用部などの給排水設備工事・排水設備工事に対応しています(個人宅の工事は対象外です)。ビルや商業施設の地下フロアの排水ポンプアップ設備の新設・更新、既存の地下排水設備の老朽化のご相談は、お問い合わせフォームよりお寄せください。
よくある質問
Q. 排水のポンプアップとは何ですか?
A. 重力(自然勾配)では流せない低い場所の排水を、水中ポンプで高い位置の排水管まで汲み上げて送る方法です。地下室・半地下のトイレやキッチン、道路より低い土地の建物などで採用され、集水ピット・水中ポンプ・圧送配管・逆止弁・制御盤で構成されます。
Q. ポンプアップ設備の設置費用は何で決まりますか?
A. 既存の集水ピットを使えるか新設するか、ポンプの台数と型式、制御盤・警報設備の更新の有無、揚程と配管の距離、電気工事の範囲で大きく変わります。現場調査のうえでの見積りが必要です。
Q. 排水ポンプの寿命・交換時期はどのくらいですか?
A. 交換の時期は、使用頻度や水質によって変わります。異音や起動・停止の繰り返し、水位が下がらないといった前兆が出ていないかを定期点検で確かめ、点検の結果とメーカーの推奨をもとに判断します。定期的な動作確認と分解整備は、突然の故障による溢水事故の予防につながります。
Q. 停電するとポンプアップの排水はどうなりますか?
A. ポンプは電動のため停電中は排水できません。停電中に水を使い続けるとピットが満水になり溢れる恐れがあるため、地下フロアでの水使用は控えてください。重要施設では非常用電源や高水位警報の設置をおすすめします。
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