
医療施設の配管工事が一般建物と異なる理由
病院や歯科医院の配管工事は、一般住宅やオフィスビルと比べて格段に複雑な要件を満たす必要があります。医療環境では感染制御・患者安全・業務継続性が最優先事項であり、これらは給排水設備の設計と施工品質に直接依存しています。
たとえば、一般建物では水道水(上水)を普通に使えば問題ないところが、医療施設では「滅菌水が必要な処置室」「逆浸透膜処理水(RO水)を使う透析室」「感染廃水を適切に処理する排水系統」など、用途ごとに異なる水質と配管系統が求められます。
また医療機関は24時間・365日営業が原則であるため、工事中の断水時間の最小化、段階的な施工計画、仮設給排水ルートの確保など、運用を維持しながら施工する高度な対応が必要になります。
給水計画の基本:水質用途別の系統分離

一般給水系統(上水) 患者用・スタッフ用の手洗い、トイレ、シャワー、給湯などに使用します。水道法の基準を満たす上水をそのまま供給しますが、レジオネラ菌のリスクを抑えるため貯湯温度管理(60℃以上維持)と定期的なフラッシングが重要です。
純水・滅菌水系統 中央材料室(CSSD)では手術器具・器材の洗浄・滅菌に純水が必要です。軟水器・逆浸透膜(RO)装置・紫外線滅菌器などの処理設備を経由した専用系統を設け、使用箇所まで専用配管で供給します。配管材料はステンレス(SUS304またはSUS316L)が標準です。
歯科用給水(デンタルユニット給水) 歯科診療ユニット(デンタルチェア)には、スケーラー・エアタービンハンドピース・三ウェイシリンジへの給水が必要です。近年、歯科用給水の水質(給水系内に繁殖する細菌などの管理)が注目されており、専用の給水消毒装置(過酸化水素水・次亜塩素酸水使用)を組み合わせた系統が推奨されます。具体的な管理目標値や運用方法は、所管の指針・最新の関連情報をご確認ください。
飲料水系統(ウォーターサーバー・製氷機) 病室での飲料水や患者への給水は、水道水の直接供給またはウォーターサーバー設置が一般的です。製氷機への配管は、定期的なフィルター交換と清掃のしやすさを考慮した設置計画が重要です。
排水計画:感染廃水と一般排水の分離
一般排水系統 患者用トイレ・スタッフ洗面・給湯室などからの排水は、通常の衛生排水として処理されます。
感染廃水系統 感染症病棟・隔離室・検査室・内視鏡室・解剖室などからの排水は、病原微生物を含む可能性があるため、感染廃水専用の系統を設けることが求められます。感染廃水は院内の専用処理設備(消毒処理槽)または密閉配管で公共下水道へ確実に導く設計が必要です。
放射性排水系統 核医学(RI)検査・治療を行う施設では、放射性物質を含む排水が発生します。医療法(同施行規則)など放射線関連の法令に基づく減衰タンク(ホールドタンク)を設置し、放射能が安全レベルに下がってから放流します(適用される根拠法令の詳細は所管の保健所・法令等でご確認ください)。専用の配管材料(SUS製)と漏洩防止措置が義務づけられています。
排水消毒・処理設備 病院によっては院内排水処理設備(活性汚泥処理・消毒処理)を設置し、公共下水道への流入負荷を管理します。排水の水質基準(BOD・SS・細菌数など)は都道府県の指導基準に従います。
医療ガス配管との連携
病院の配管工事では、給排水だけでなく医療ガス配管との干渉に注意が必要です。酸素・空気・窒素・笑気・二酸化炭素などの医療ガス配管は、給排水管とは別系統で施工されますが、天井裏・壁内・床下のスペースを共有することが多く、施工順序・支持架台の配置・保温材の取り付けなどで総合的な調整が必要です。
配管図(BIM図面)を活用した干渉チェックが、医療施設の設備工事では標準的なプロセスになっています。特に既存建物の改修工事では、竣工図面が実態と異なるケースも多く、着工前の現地調査(埋設配管探査・天井内点検)が不可欠です。
工事中の運用継続:段階施工と仮設計画
診療中の病院の改修工事では、以下の対策を講じながら工事を進めます。
養生・感染対策 工事エリアとの境界に防塵シート・エアカーテンを設置し、工事粉塵や工事中のカビ胞子が患者エリアへ拡散しないよう管理します。特に免疫低下患者(血液腫瘍病棟・ICU等)への影響を防ぐ「感染対策工事基準(ICRA)」の遵守が求められます。
夜間・休日工事 断水を伴う作業は診療時間外の夜間や休診日に集中させます。週末・夜間の作業スケジュールを詳細に計画し、翌朝の診療再開前に通水・確認が完了するよう管理します。
仮設給排水の確保 工事期間中に機能停止となるエリアへの仮設給水(配管・水タンク設置)と仮設排水(ポンプアップ・仮設排水管)を確保します。特に手術室・ICU・内視鏡室などの特殊エリアでは停水時間をゼロにする計画が求められるケースもあります。
施工後の確認・検査・書類作成
医療施設の給排水工事では、完工後の確認と書類整備が特に重要です。
- 水質検査(水道法・厚生労働省基準に準じた検査)
- 消毒・フラッシング実施記録
- 系統ごとの圧力試験・漏水確認記録
- 施工完了図面(竣工図)の作成・提出
- 設備メーカー試運転報告書の取得
これらの書類は開院審査・保険医療機関指定申請・定期的な医療法検査で参照されるため、正確かつ完全に作成・保管する必要があります。
病院・歯科医院の配管工事は高度な専門知識と経験が求められる分野です。医療施設の給排水設備に精通した業者に相談し、設計段階から施工・引き渡し後の維持管理まで一貫した対応を依頼することが、安全で高品質な医療環境の実現につながります。
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