
下水道に油分・重金属・酸やアルカリなどを含む排水を流している工場や事業所は、下水道法にもとづき「除害施設」の設置を義務づけられている場合があります。除害施設は、公共下水道や終末処理場の機能を損なわないよう、排水を法定基準以下まで処理してから放流するための設備です。設置対象なのに未設置のまま操業していたり、設置していても点検・清掃を怠っていたりすると、行政指導や使用停止命令の対象になるおそれがあります。本記事では、除害施設の法的な位置づけ、対象となる施設の例、設置基準、点検・届出の実務、そして未対応時のリスクまでを配管・水道工事の専門家の視点で整理します。
除害施設とは何か——下水道法上の位置づけ
下水道法第12条は、公共下水道に一定の水質基準を超える下水を排除しようとする者に対し、あらかじめ「除害施設」を設けることを義務づけています。ここでいう除害施設とは、下水道の施設(管路や終末処理場)の機能を妨げたり、施設を損傷させたり、処理を著しく困難にさせたりする物質を、法定の排水基準以下まで処理するための設備の総称です。
対象となるのは「特定施設」を設置する事業場です。特定施設とは、下水道法施行令および各自治体の下水道条例で定められた、水質汚濁の原因となりやすい施設を指します。具体的には、油脂・重金属・有害化学物質・高濃度の有機物などを含む排水を発生させる製造工程や洗浄工程を持つ設備が該当します。特定施設に該当するかどうかは業種だけでなく、使用している薬剤・工程・排水量によって判断が分かれるため、個別に自治体の下水道担当窓口へ確認する必要があります。
除害施設の設置義務は、あくまで公共下水道に接続し、そこへ排水する事業場が対象です。合併処理浄化槽など自己処理で完結させ公共下水道に接続していない事業場は、下水道法上の除害施設義務の対象外となりますが、その場合は水質汚濁防止法など別の法令にもとづく規制がかかることがあります。
対象となる施設の例

除害施設の設置義務が生じやすい代表的な業種・施設は次のとおりです。
- 金属加工・めっき工場(重金属・シアン化合物・酸やアルカリを含む排水)
- 食品加工工場(油脂・高濃度有機物・BOD/SSが高い排水)
- クリーニング工場(有機溶剤・洗剤成分を含む排水)
- 印刷工場(インキ・溶剤・現像廃液を含む排水)
- 医療施設(検査廃液・消毒薬・重金属を含む排水)
- 自動車整備工場(油分・重金属を含む排水)
いずれも、通常の生活排水とは異なり、下水道の処理機能や管路そのものに悪影響を及ぼしうる物質を含む点が共通しています。同じ業種でも工程や取り扱う薬剤によって規制対象となる項目(pH、油分、重金属濃度など)や基準値が異なるため、自社の排水がどの項目で規制を受けるかをまず把握することが出発点になります。
設置基準と設備の考え方
除害施設として実際に導入される設備は、対象物質の種類によって異なります。代表的なものは次のとおりです。
- 油分離槽(オイルセパレーター): 自動車整備工場や機械加工工場などで、排水中の油分を比重差で分離し、下水道への流出を防ぐ設備です。
- 中和槽: 酸やアルカリを含む排水のpHを法定基準の範囲内に調整するための設備です。金属加工やめっき工程などで用いられます。
- グリース阻集器(グリーストラップ): 飲食店や食品加工施設で、油脂分を分離・捕捉し、下水道管の閉塞や悪臭の原因を防ぐための設備です。
- 重金属除去設備: 凝集沈殿やろ過などにより、排水中の重金属を基準値以下まで除去する設備です。
どの設備を、どの規模で導入すべきかは、事業場の排水量・排水の成分・自治体が定める基準値によって決まります。過小な容量の設備を設置すると基準値を満たせず、逆に過大な設備は初期投資と維持コストが不必要に増えるため、実際の排水実態を踏まえた選定が重要です。既存設備がある場合も、生産量の増加や工程変更により処理能力が不足していないか、定期的な見直しが必要です。
点検・届出の実務
除害施設は設置して終わりではなく、継続的な維持管理と行政への報告が求められます。
まず、特定施設の設置・変更にあたっては、事前に自治体(下水道管理者)へ届出を行う必要があります。届出内容には、施設の種類・構造・排水量・排水の水質などが含まれ、内容に不備があると受理されないため、事前に窓口へ相談しながら進めるのが一般的です。
設置後は、多くの自治体条例で定期的な水質測定・記録の保存が義務づけられています。測定頻度や記録の保存期間は自治体条例によって異なるため、管轄の下水道担当部署の基準を確認する必要があります。あわせて、油分離槽やグリース阻集器などは油分・堆積物が定期的に蓄積するため、機能を維持するための定期清掃が欠かせません。清掃を怠ると処理能力が低下し、基準値を超過した排水がそのまま流出するリスクが高まります。
除害施設や特定施設に変更(増設・改造・廃止など)が生じた場合も、その都度届出が必要です。無届のまま設備を変更・廃止すると、行政指導の対象になることがあります。
非対応時の罰則・リスク
下水道法にもとづく特定施設の届出義務や排水基準を満たさない場合、自治体は事業場に対して改善命令や使用停止命令を発することができます。命令に従わない場合や、悪質な違反と判断された場合には、下水道法上の罰則規定にもとづき罰金等の対象となることがあります。
また、法令上の罰則に至らない場合でも、排水基準を超過した排水が下水道管の腐食や処理場の機能障害を引き起こせば、原因者として損害賠償を求められるリスクや、取引先・元請からの信用低下につながるおそれがあります。特に食品工場や医療施設など、衛生管理が事業の根幹に関わる業種では、行政指導の事実そのものが対外的な信用に影響しかねません。
除害施設の設置・点検は、規制を満たすための最低限の対応というだけでなく、事業を継続的に運営していくうえでのリスク管理の一部として捉える必要があります。
関連する法令・制度と相談窓口
除害施設に関する規制の根拠は下水道法および同法施行令、そして各自治体が定める下水道条例です。基準値や届出様式は自治体ごとに異なるため、まずは事業場が所在する自治体の下水道担当窓口(下水道管理者)に相談することが実務上の第一歩になります。
排水設備の新設・改造にあたっては、排水設備指定工事店制度にもとづく指定工事店に依頼する必要がある点も、下水道法体系の一部として押さえておきたいポイントです。無指定の業者に依頼すると、届出や検査の手続きが正しく進まないおそれがあります。あわせて、食品加工施設や飲食店で油脂を扱う場合はグリーストラップの容量選定・清掃周期、工場排水全般の配管維持管理については工場・産業施設の排水処理配管メンテナンスも参考になります。
除害施設の設置基準への適合や、老朽化した油分離槽・中和槽まわりの配管点検など、配管工事そのものに関するご相談は、お問い合わせフォームよりご相談ください。行政への届出内容や基準値の判断は、必ず所管の自治体窓口にご確認ください。
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